天気の話

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m_hikouki

隣の女性は先の尖った編み棒を編み物もしないで、ずっと握りしめている……。

なぜ、編み棒を握りしめているのかを尋ねたいが、いきなり聞くのも少し変で、それに初対面なので恥ずかしい……。

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飛行機の中

私は出張で飛行機に乗っている。

隣の席には、先の尖った編み棒を持った美しい女性がいる。編み棒は、機内持ち込みできるらしい。通路の反対側には、爪切りを取り上げられたと嘆いている男性がいた。爪切りよりも、この女性が持っている先の尖った編み棒の方が危ないのでは……。

そんな事を思いながら、もう一度女性を見てみると編み棒は持っているが編み物はしていない。ただひたすら、編み棒を握りしめて何かを考えている。

何を編むのかを考えているのかな?

この状況が一時間過ぎ、さすがに気になった。なぜ、編み棒を持っているのかを聞いてみたいが、男の私が初対面の女性に話しかけるのは照れくさくて、何より慣れていない。

それに、なぜ編み棒をずっと持っているのかをいきなり聞くのも少し変だ。

私は三十歳になるまで、天気を話題にするのは愚かな人間の証だと考えていた。時間の無駄で、失礼ですらあると思っていた。しかし、あることがきっかけで考えが変わった。

北海道へ出張に行った時の事、私は初めて天気を意識した。毎日の様に肌を針で刺すような寒さに、九州男児の私はこの未知の気温に深く影響されるようになった。そして少しずつ、他の人にも天気は同じ作用を及ぼしているのだと感じ始めた。

天気に関する話題も、それほど無意味ではないように思えてきた。

まず、手始めにガソリンスタンドの店員で試してみることにした。もう二度と会う事もないガソリンスタンドの店員ならいいだろう……。

店員の女性は、私がこの土地に出張で来ていることも、素晴らしい才能を秘めた人間であることも知らない。しかし、最初に声をかける時は、長年の侮蔑的な態度が表れてしまい思わず吹き出しそうになった。

「今日も凄い雪ですね」

「そうですね」

店員がそう答えると、すかさずこう言ってきた。

「駐車場から車を出すのに一苦労しました。くれぐれも運転にはお気を付けて下さいね」

なんとも簡単で、何の努力も要らなかった。見ず知らずの私を心配してくれる人、少なくとも自分の苦労話をしてくれて、温かい言葉をかけてくれる。

次は職場で試した。

知り合いが相手だとさらに効果があった。天気の話題は、話をさらに進めたり、共通の経験を共有したりするためのきっかけとなった。雨、雪、晴れ、誰もが同じ条件の下にいるのだが、天気との関わり方は人それぞれだ。

痛みを感じる人、喜ぶ人、嫌な気持ちになる人、ただ単に熱いとか寒いと感じる人。ほとんどの人が、大切なことを語るのと同じくらい天気について話せるのが嬉しそうだった。

そのうち、別の現象が起こった。天気の話が板についてくると、天気以外の話もできるようになった。顧客、納入業者、同僚、皆があらゆることについて話してくれるようになった。相手の家族、仕事上の悩み、将来の希望や計画など、色々なことを聞けた。

天気の話は、ビジネスマンにとって、交流を図り、話題をつなぎ、さらに深い話題に移るための最良の手段かもしれないということに気付いた。

今の私は、天気の話をしない一日など想像ができない。時間の無駄で失礼であると思っていた自分がとても愚かしい。

私以外の人達にも、今人生のどの段階にいて、どのような立場にあり、どのような環境に置かれているのかは分からないが、ぜひ試してもらいたいものだ。

誰でも良いから笑顔で明るく、「晴れて良い天気ですね」と話しかけてみてほしい。きっと、何かが変わると思う。

私は笑顔で明るく隣の女性に話しかけた。

「今日は晴れて良い天気ですね」

すると女性はこう返してきた。

「天気の話は時間の無駄で失礼ですからやめてくれません?」

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