略奪愛

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そして、また好きな人が現れた。恋人がいた。七人目の略奪愛が今始まった。

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今までの恋愛は全て略奪愛

そして、また好きな人が現れた。恋人がいた。七人目の略奪愛が今始まった。

この三十年間、今までの恋愛は全て略奪愛によるものだった。たまたま好きになった女性に彼氏がおり、それを承知で告白し、アプローチをした。

過去六人、付き合った女性はその略奪愛によるものだ。

実際、略奪愛というものは、普通の恋愛に比べて相当なエネルギーを使う。しいて言えば、フルマラソンを完走した夜に男女の営みを行って、また次の日にフルマラソンを走るようなものだ。

生半可な精神力では、体も心もズタズタになり、廃人寸前まで陥ってしまうだろう。それは麻薬となんら変わらない。

恋愛とは、そういうものだが、恋愛をゲーム感覚で話せば、先に好きになった者が負けだ。男女関わらず、相手のいいなりになってしまうからだ。

本音を聞き出したいのに、嫌われるのが怖くて聞けない自分。

相手の事が好きなのに、会うたびに気を使って、疲れ果ててしまう自分がいる。

また会いたくて、会っては疲れての繰り返しで、この状況から抜け出したいのに、抜け出せない自分に、何かきっかけがほしくて苦しんでいる自分。

いつまで、この状況が続くのだろう?

時間だけが無情にも過ぎ去り、日に日に胸の真ん中辺りが締め付けられていく。こんな気持ちのまま過ごしていても、辛いだけで何かもったいない。

悩むことは仕方がないけれど、少し悩んだ後は楽観的にこの苦しい状況も楽しむ余裕がなければ、略奪愛はやっていけない。

略奪愛は一見難しそうに見えるが、実は普通の恋愛に比べて成功率が高い。相手の心の隙をついて、そこをうまく見抜けるかが勝負である。

最近、彼氏とはうまくいっているのかなど、さりげなく聞き出し、うまくいっていなければチャンスだ。

相手の好き度合いにもよるのだが、話を聞いて、聞いて聞きまくる。簡単そうに見えて、この聞く行為は実は略奪愛の過程で一番つらい。

この時ばかりは自分の恋愛感情を殺して、聞きたくもない彼氏の話を延々と聞かなければならないからだ。

しかし、こうすることにより、相手は少しずつ心を開いてきて、信頼関係が築かれていく。中には、告白もしていないのに男女の関係になってしまうこともある。

それはそれで、嬉しいことだが、複雑でもある。体は許しても心は完全には許してないからである。愛人関係のような、これはこれで楽しいものだが、やはり、苦しいときの方が多い。

略奪愛は奪い合いのゲーム

普通の恋愛もそうだが、勝者が必ず幸せになれるとは限らない。恋愛は勝ち負けではないから。

そして、また好きな人ができた。やっぱり、彼氏がいた。

七人目の略奪愛が始まった。

彼女と僕の共通点は、何となく性格が似ているということ。

この何となくが、大切で、言葉ではなかなか伝えにくいが、どちらかといえば感じてほしいという感じ。

一見、おとなしそうに見えるが、二人きりになると、実はそうでもない。大胆と思っていたが、意外に恥ずかしがりの一面があるなど、恋愛には、こういうギャップは必要だ。

男という生き物は、ほとんど一瞬で恋に落ちえるが、女は、そう簡単に恋に落ちない。例えれば、男はガスコンロで、女は炭。

ガスコンロは、火がつくのは早いが、消えるのも早い。

炭は火がつくのは遅いが、一度火がつくと、なかなか消えない。

だから、男と女は難しいのである。そんなこといっても、この世には、男と女しかいないし、男から見れば女は魅力的かつ神秘的であり、女から見てもまたそうである。

女心は秋の空とよく言うが、女は気分や機嫌がコロコロと秋の空のように変わりやすいし、移ろいやすい。

だから、男は、そんな女に振り回されて、よく疲れる。こちらが主導権を握っていない恋愛なら尚更だ。

相手の言うことを、とりあえず聞いて、優しい男を演じ、嫌われないように神経を張りつめて努力し、家に帰って反省と無力感を何回も繰り返す。

そんなことを繰り返していくと、ある日こう思うことがある。

本当に好きなのだろうか?

この恋愛は楽しいのだろうか?

このまま続けていって何の意味があるのだろうか?

難しく考えれば考えるほど答えはでないし、無性に苦しくて、なぜか意味もなく腹が立つ時がある。

精神的におかしくなりそうになり、無理やり深呼吸をし、心を落ち着かせる。

こんな気持ちになる理由は彼女を好きになった以外、他にないのだが皮肉なことに、また彼女と会って抱きしめて、一時的に癒されて、また時間が経つにつれ苦しくなり、もがいては、またおかしくなる。

永遠の合法麻薬といっても過言ではない

女性というのは、本当に男性と比べて、複雑かつデリケートである。性別は関係なしに、人の気持ちは簡単に変えられない。

意中の女性を自分の事を好きにさせることよりも、意外なことに体の関係を持たせることの方が簡単なのである。

こんなことをいうと、女性から非難の声を浴びせられるかもしれないが、納得する女性の方が実は多いと思う。

その理由は、やはり女性の心は複雑かつデリケートで、その時の雰囲気や状況で体を許してしまうものである。

お酒が入っていたというのも多少あるが、一番の理由は淋しいのと何かに満たされていない気持ちが強くなった時に許してしまう。

それでも、男なら誰でもいいとは、さすがにならない。多少、気になる相手か、悪くはないかなと思っている相手ではないと、まず、そこまでの展開にはならないだろう。

体を許す前に、手を繋ぎ、体を寄せ合い、抱きしめて、キスをする過程で、本当に嫌いな相手なら、最初の手を繋ぐ段階で拒否をする。

いきなり、本番はただのレイプであり、犯罪だ。

一夜限りの……とかもあるだろうが、略奪愛に限っては、ほとんど、一夜限りではない。

体は求めなくても、会うたびにキスを重ね、この関係が一体何なのかと、少しずつお互い疑問に感じてくる。僕の場合では彼女はこう思うだろう。

彼氏がいるのに、なぜ、キスをしてしまうのだろう?

彼氏の事が大好きなのに、なぜ、この人と二人きりで会って、体やキスを求められても拒否をしないのだろう?

なぜ、この人は私には彼氏がいるのに諦めず、積極的にアプローチをしてくるのだろう?

だんだんと訳が分からなくなり、彼女自身は疑問と気持ちに応えられなくて申し訳がない気持ちが入り混じり、そんな感情が永遠と心の中で繰り返される。

そして、彼氏とうまくいっていないのならば、余計に悩み苦しみ、私は一体何なのかと、自分自身が嫌いになり、人が嫌いになり、もう何も考えなくてもいい世界に行きたいと妄想にふけだす。

けれども、やっぱり淋しいので、それを彼氏が満たしてくれないなら、言い寄ってくる男性に……と変な話、妥協してしまう。

悲しいかな、そんな心の隙を狙っていくのが略奪愛である。

まさしく遠くの恋人より近くの愛人

会うたびに体を重ねていたら、すぐに飽きられるよと彼女が言った。それはどちらかと言うと、男が言う言葉で、苦笑いしながら少し首を傾げた。

僕は思わず、そんなことはない、抱くたびに……と後の言葉は言わずに、そのまま事を済ませた。

女性というのは、時として不可解な行動に出る。もう駄目だ、嫌われてしまったと落ち込んでいたら、何事もなかったかのように彼女から明るいメールがくる。

そうかと思えば、そっけない態度や、よそよそしい素振りで、不安にさせ、僕の精神を適度に苦しませてくれる。

この適度がまた厄介で、僕にとっては良くも悪くも丁度いい。

多分これがないと、飽き性の僕にとってはモチベーションが保てないだろう。本音はどうかと尋ねられれば難しいが、正直、体調にもよる。

男は一度、体の関係を持った女性にはもう興味がなくなるとか、よく聞く話だけど、それは好きな女性を抱いていないだけで、本当に好きな女性を抱くと、もっと相手の事が好きになる。

それは確信している。ただ、体の相性もある。これが、実は重要で、どんなに気持ちの上では好きでも、体の相性が最悪ならば、それはただの仲の良いお友達となんら変わらない。

恋人には決してなれない

これが、また男と女の難しい所である。体の相性だけは、どんなに努力しても合わないものは合わない。

気持ちが、まだあやふやでも体を重ねれば、あやふやな気持ちも揺らいでいく……。

そうかもしれないが多少、お互い気持ちがないと、まずその確かめる行為にまで及べないのが、また難しい所である。

ある時、積極的にアプローチをしている途中で、自分を見失ってしまう時がある。

相手の事を好きすぎて、自分の気持ちしか考えずに、相手の気持ちを無視してしまって、傷つけてしまう。恋愛というのは一人でするものではなく、二人でするもの。

そんな当たり前の事も忘れてしまうぐらい夢中になってしまう女性は、それはそれで、素晴らしいのだが、こちらのペースはめちゃくちゃになってしまう。

あげくの果てには、いい感じの所まで進んでいたのに嫌われてしまい、目も合わさない、話しても素っ気ない態度、メールも電話も無視で、アプローチのやり方がどんどんなくなってしまった。

簡単にいえば振られているという状況だが、臆することなかれ、女心というのは前にも述べたが、変わりやすい。悪い方にも変われば、もちろん良い方にも変わる。

ただ、一つ問題なのは、女性は一度信用をなくすと、取り戻すのに、よっぽどの事がない限り、時間がかかり難しい。

嫌われた原因にもよるが、まだこちらから話しかけて返答があれば、全然問題はない。

向こうから、軽い挨拶をしてきてくれれば、完璧には嫌われてはいないので充分に挽回の余地はある。

最悪なのは、生理的に受け付けられないと思われ、全ての存在自体が無視で、嫌いとかではなく、どうでもいい存在と思われれば、もう終わりだ。

そこまで思われるのは、恋愛経験が全くない男か、いい年になって、デートもしていないのに「好きです、付き合って下さい」と言ってしまう様な、モテない童貞ぐらいだろう。

このような男性たちは、全てがそうだとは言えないが、女性に告白して振られたら、ほとんどがショックで諦める。

けれども、なかなか忘れられずに、ウジウジする。

学校や職場が一緒で顔を合わす環境ならば、相手の女性は避けてしまい、振られた男性も同じように気まずくなり避けてしまう。

それで、なんとなく毎日がすぎ、過去の失恋の一部として風化してしまう。大体が惚れた女性を落とせないのは、振られたら終わりと思い込んでしまっている所にある。

惚れた女性を落とせる男は?

振られてからがチャンスと意気込む。

少し嫌われてからがアプローチの本番だと進んでいく。

相手の女性がしつこく押されて、嫌がっている空気を読む。

ある程度の恋愛経験は必要だが、男なら、嫌われるのが怖くて躊躇している様では、いつまでたっても女性は変わらないし、落とせない。その間に他の男に落とされるだけだ。

確かに押すだけでは落とせない。どこかの安っぽい恋愛指南書ではないが、押してダメなら引いてみなとよく聞くけれど、それはタイミングが重要で、そのタイミングもやはり、ある程度の恋愛経験が必要である。

だから、たくさん恋愛して、たくさん失恋して、色んな女性と出会えればいい。

何事もそうだが、はじめの一歩を踏み出すのが一番難しい。頭の中で色々と考えて、実際の行動を止めてしまう。

恋愛は自信と余裕が大切だが、それも経験で培われる。

何とも皮肉で矛盾しているが、そういうものであると、あまり難しく考えないことが一番であるということである。

あの頃は、本当に彼女の事が好きすぎていた。けれども、過去最高に好きというわけでもない。

ただ、こんな恋は初めてという感覚と二度と味わえないという執着が頭と心の間をずっと行き来していた。

どんな恋愛でも、こんな恋は初めてとは思うけれど、今回の恋は周りも見えない。

自分の気持ちが相手よりも優先しすぎて、余裕がなく、本気で好きなのに、今思えば、そんな気持ちが本当に相手の事を想う気持ちなのかと疑問に思った。

彼女はよく耐えていたと思う。

俺の事だけではなく、仕事や私生活の事情、俺の知らない悩みなどで心底疲れていたと思う。

生きていたら、色んな悩みはついてくるし、あって当然。俺もある。

そんな時、お互いがタイミングよく出逢い、関係を持ち、二人が心地よい存在になれるのは時間の問題と感じていた。

恋愛というのは、二人でするもの。どちらか一方が熱くなりすぎると、温度差で離れざるおえなくなる。女性という生き物は我慢強い。

そうなる前にいくつかのサインのようなものはでていたはずだ。俺はそのサインを見落として、こんな状況に陥った。

あの時にこういうことを伝えたかったけれど、それも結局は自己満足の世界。

何もしないことが本当に正解かはわからないけど、多分そうだろう……。

恋愛に正解も不正解もないけれど、お互いが、その年、その月、その日、その時間に出逢い、惹かれて、話したいから話す。

会いたいから会う。理由があるようで理由はない。人を好きになると、冷静ではいられない。余裕があるなら、それはまだそんなに好きではないという事。本気ではない証拠。

本気で恋をしたら成就しにくい。なんとも皮肉なこと。

今回の恋愛で勉強になって、人間的にも成長して、まだまだこれからだけど、また辛くて楽しい恋をしていきたい。死ぬまでずっと。

一回りも二回りも大きくなった自分がいる。本当に良い恋愛を経験させてくれてありがとう。感謝します。出逢えて良かったです。

そんな風に思える恋愛は、略奪愛では不可能だ。

ただ、普通の恋愛では得られない快感とその後のなんとも言えない脱力感を味わえられる。

そして、その略奪愛が終わったあとは、何も残らない。だから、また略奪愛ができてしまう。皮肉なことに。

略奪愛で実った恋はうまくいかない

本当にうまくいかない。

頭では分かっていても、心は制御できない。

それが、恋であり、愛でもある。

略奪愛はもう卒業だ。

今までの恋愛は成長するための試練。恋愛で成長するためには失恋しかない。何とも皮肉な話だ。

新しく恋愛が始まっても、いつかくる終わりが存在することを知りながらも、今を大切に過ごしていく。

時間は儚い。

いろいろなものを生み出し、消していく。

これからは普通の恋愛をしよう。

しかし、普通の恋愛って何だろう?

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