大好きな爺ちゃんと川釣りに行った。
爺ちゃんが釣ったのは……。
爺ちゃんと川釣り
久しぶりに僕の大好きな爺ちゃんと川釣りに行った。
爺ちゃんはとても長く生きているから、川釣りがすごく上手い。僕は子供だから、まだまだ川釣りは下手だ……。
「ここで釣ろう」
爺ちゃんはそう言って、その場に座り込んだ。
「エサは?」
「まずは、これでいいよ」
爺ちゃんはそう言って、穴の開いた丸いエサを僕に渡した。川の中に釣糸を垂らすと、暫くして浮きが沈んだ。
「まだ上げてはならんぞ……」
「えっ? どうして?」
「もう少し、間を置いてからじゃ……よしっ、今じゃ!」
釣竿を勢いよく上げると、釣竿の先には何もなかった。
「あっ、エサを取られた……」
「惜しいな、わしが見本を見せてやる」
そう言って、爺ちゃんはエサを取り付けた。
「さっきとエサが違うよ」
「これは上級者向けじゃ……」
爺ちゃんが川の中に釣糸を垂らすと数秒で浮きが沈んだ。
「はやいっ! さすが爺ちゃん!」
「このエサの場合は間を置かず、すぐに上げる!」
得意気にそう言って、釣竿を上げると少し小さいのが釣れた。そして、すぐさま川へ返した。
「いらないの?」
僕がそう尋ねると、爺ちゃんは渋い顔をしてこう言った。
「何十年も仕事一筋で生きてきて、出世もそこそこ。ふと気がつくと、趣味もなく、友達もいない。子育ても終わり、定年間際で妻に逃げられ、あげくの果てには借金地獄。そんなところじゃろう……」
爺ちゃんはそう言って、今度は違うエサを取り出した。
「それは何? さっきと全然違うよ?」
「さっきのは、お金というエサで、これは核兵器にも肩を並べる地球最大で最悪の発明品、タバコというエサじゃ」
「そんなくだらないエサで本当に釣れるの?」
「今はあんまり釣れないが、昔はよく釣れたものじゃ。少しは人間も賢くなったかな?」