ある若者が必至の形相で『人に好かれる方法』を教えてもらいにきたが……。
人に好かれる方法を教えて下さい!
若者は血相を変えて、走ってきた。
「そんなに人に好かれたいのか?」
「はい……、特に女性の人に……」
「もてたいのか?」
「……そんなところです」
若者はどこか具合が悪いのか、顔色が青白い。今にも、倒れそうな痩せた身体に、ヨレヨレのシャツと何年も切っていないボサボサの頭。それに加え、鼻を思わずつまみたくなるような体臭に、覇気がない死んだ魚の様な目……。
「人に好かれたいのならば、まずは清潔感だな」
「清潔感?」
若者は首を傾げた。
「その身なり、どうにかならないのか?まずは、そこからだ」
「何が駄目なのですか?」
「安くてもいいから、ピシッとした服を着て、髪の毛も伸ばすなら、綺麗にまとめる。風呂には毎日入ることだ」
「それだけで、人に好かれるのですか!」
若者は、少し興奮した。
「これは最低限の事だ!」
「わかりました……。その後はどうすればいいのですか?」
若者がそう聞くと、こう言った。
「人に好かれたい、女性に好かれたいのならば、積極的に話し掛けることだ。特に女性という生き物は、話し掛けられないと自分はその人に嫌われていると思い込む性質だからな」
「そうなのですか……」
「それと、話し掛けても、自慢話や愚痴、嘘や一方通行の会話は、反対に嫌われるから気をつけろよ」
「はい……」
「会話するときは、常に共感し、否定的な事は一切言わずに聞き役にまわること」
「難しそうですね……」
「慣れれば簡単な事だ」
若者は、しばらく下を向いて、色々と考えていた。
「他にはありますか?」
若者がそう言うと、表情が少し険しくなり、こう言ってきた。
「人に好かれたいのならば、人に好かれようとしないことだな」
[どういうことですか?]
「想像してみろ……、人に好かれたいが為に自分を偽って、思ってもいない事を口走ったり、物やお金を人にばらまいたり、自分よりも他人の為にエネルギーを使い果たしている姿は、とてもじゃないけど見ていられない……」
「なるほど、想像してみると何か痛々しいですね……」
「それなら、まだ寂しいかもしれないが、一人で自分の為にエネルギーを使って、夢や目標に打ち込む方がいい。皮肉なことに、その方が人に好かれる……。人が夢や目標に突き進んでいる姿は、この世で一番かっこよくて、美しいからな。お前には何か夢はあるのか?」
若者は、そう言われると目の色が変わってこう言った。
「夢などはありませんが、人に好かれないと私の場合、この世界で上手く生きていけませんからね……。おかげさまで、これからは美味しい生き血が、たらふく飲めそうです」