生死のマラソン

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このマラソン大会は優勝者以外、全員死ぬ。

途中で立ち止まっても死ぬ。とにかくスタートしたら走り続けなければならない。

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スタートライン

顔も名前も分からない奴らが険しい表情で並んでいる。

今回のマラソン大会の参加者は過去最高で僕はあまりにも膨大な数に少し不安になった。目を細めるとかすかに見える宮殿がゴールで最初に辿り着いた者が勝者だ。

このマラソン大会は勝者以外、全員死ぬ。

つまり、優勝しなければ死んでしまう……。途中で立ち止まっても死ぬ。とにかく走り続けなければならない。宮殿に辿り着くか、誰かが到着するまでずっと……。

「お前、怖いのか?」

隣にいた彼がいきなり話しかけてきた。

「君は怖くないのかい?」

「優勝すればいいだけの事だ」

たまたま隣同士になった彼とそんな事を話していると、いきなり一斉に走り出した。道はとにかく一本道で、とてつもなく広い。

「このスタートラインを越えて止まると死ぬぜ。これも何かの縁だ、気長に一緒に走ろう」

そう言われて、僕は彼と一緒に走り出した。他の人達とは反対にゆっくりとスタートした。彼は先の方を見ながらこう言った。

「あんなに早く走っていたら、すぐに疲れ果てて止まってしまうぜ」

「でも、この速さで大丈夫かな?」

僕は歩いているのと同じぐらいの速さに少し不安になった。

「大丈夫だよ、そのうちに次々と倒れていくから……」

とにかく走り続けなければならない。他の人達より遅くても、余計な事は考えずに宮殿まで走ろう。

そんな事を思いながら走っていると、前の方にいた集団が徐々に僕達よりも遅くなった。

「ほらな、飛ばしすぎだよ」

僕達はその集団の中に入り、そして追い抜いた。その集団の中で数人が立ち止まった。後ろを振り返ると、彼等は苦しそうに痙攣を起こしながら数秒後には全く動かなくなった。

死んだのか……?

彼が言っていたのは正解だった

次々に倒れていく。何かを諦めたのか急に立ち止まる者、必死の形相で苦しそうに倒れ込む者、なぜかスタートラインに戻って行く者もいた。

僕が不安そうな表情をしていると彼はこう言った。

「あまり気にするな、走ることだけを考えろ」

「…………」

時間が経つにつれて、お互いに話さなくなっていた。

僕は少し疲れてきた。彼も少しだけ辛そうだった。それもそのはず、いくら走っても宮殿は近づかない所か、遠退いていく感じがした。

宮殿に着いたら、どうなるのだろう……。僕は、ふとそう思い彼に聞いてみた。

「わからないけれど、悪い事にはならないと思うぜ」

彼は不思議そうに周りを見渡しながら、そう言った。

「どうしたの?」

「少なくなってきたな……」

そう言えば、スタート時にはあんなにいた人達も、たまに見掛ける程度になっていた。皆死んでしまったのだろうか……。

僕がそう考えていると、ある事に気がついた。一番最初に辿り着いた者以外は死んでしまうということは、どちらかは死ぬということなのか……?

彼の方を見ると一瞬だけ目が合った。彼は無言のまま、すぐさま前を見つめた。彼も気づいているのかな……。

「何を考えているんだ?」

僕は急に話しかけられて驚き、つまずきそうになった。

「危ない!」

彼はそう叫んで、倒れそうになった僕を支えてくれた。そのお陰で僕は倒れずに済んだ。

「ごめん……」

「大丈夫か? 疲れてきたのか?」

彼の優しい言葉に僕は心の内を話した。

「多分、僕が一人で走っていたら途中で止まっていたと思う。宮殿が近づいてきたら僕は立ち止まるから君は走り続けて……」

「何を言っているんだ? それは俺も一緒だ。最後まで走り続けようぜ! お互い死なずに済むかも知れない方法が一つあるんだ」

「えっ? どんな考え?」

「それは宮殿に着いてからのお楽しみだ。とにかく今は走ろう」

宮殿が大きくなってきた。もうすぐゴールだ。 僕達が死んでいないという事は先頭ということだ。

「もうすぐゴールだな」

「うん」

宮殿が近づいてくると彼はこう言ってきた。

「宮殿の前には多分ゴールラインがある。同時に入れば多分大丈夫だ」

「少しでもタイミングが合わなかったら……」

「心配するな」

彼の自信満々の表情に僕は安心した

「宮殿に着いたら友達になってくれる?」

僕が嬉しそうにそう言うと彼はこう言ってきた。

「悪いけれど、友達にはなれないな……」

僕は冗談だと思っていたが、彼の表情は険しく少し寂しくなった。

宮殿に着いたらお別れか。それもそうだな。元々、顔も名前もわからない者同士だったのだから……。

そう自分に言い聞かして、何も考えずに前を向いて走った。宮殿が目の前まで迫ると、その手前にゴールラインが見えた。

「あのラインを同時に踏み込もう」

「うん」

僕達は同時にゴールした。これで、もう走らなくても済む。死なずに辿り着けて良かった。僕は彼にお礼を言おうとしたが、彼は動かなかった。

まさか、タイミングがずれたのか……?

僕は彼の体を揺り動かしたが動かない。けれども、呼吸はしている。死んではいない。眠っているだけか……。そう安心していると、どこからともなく声が聞こえてきた。

「今回の優勝者は二人か。そこのお主、これで走らなくてもいい、死なずに済んだと思うのは大間違いだぞ」

「まだ走り続けなければならないんですか?」

「この宮殿の中はもっと過酷で辛いレースだ。しかし、走るか走らないかは自分次第。ゴールは自分で決めればいい」

僕は意味が分からなかったが、そのまま泥のように眠りについた。真っ白い光の奥から、優しい声が聞こえてきた。

「おめでとうございます! 妊娠二ヶ月目で双子ですよ! 新しいスタートの始まりですね」

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